Q&A

以前にいただいたご質問の中から、ピックアップしていくつかご紹介させていただきます。くれぐれもお時間のある方のみお読みいただければと思います。


「オルタナティブ医療」とは何ですか


オルタナティブとは「もうひとつの」という意味です。西洋医学とは異なるもうひとつのアプローチで病気に立ち向かう治療法、それが「オルタナティブ医療(代替医療)」です。

 

"News Week" ではこのことについて大きく取り上げたことがあります。記事によると、オルタナティブ医療は鍼灸、漢方、指圧、ホメオパシー、アロマセラピーなど、東洋医学に即した療法であると書かれておりました。さらに、「現代のハイテク医学には人間味を感じない。それにすべての病気が西洋医学で治せるわけではない。そんな思いから、オルタナティブ医療に頼る人は増えている。欧米の医師の間でも、命にかかわることのない慢性的疾患(関節炎やアレルギー、一部の感染症、偏頭痛、腰痛)には有効だという見方が広まっている」と報告されております。

 

当院にも欧米の方々が気楽に鍼灸治療を希望して訪れます。彼らが鍼灸を選ぶ理由の共通点は、副作用がないこと、痛みに対して即効性があることです。

 

国連WHO(世界保健機構)が「鍼に対する見解」を発表しております。「鍼に関しての説明、応用、研究を進め、深めていくことは、単に人々の健康と福祉に寄与するばかりでなく、医学発展にとっても重要なことである」と定義づけています。東洋医学の新しい潮流といえますね。



なぜ世界は今、鍼灸に注目するのですか?


鍼と聞くと、「あぁ、肩こりや痛みに効果のある治療法か…」と早合点される方がほとんどです。しかし、鍼治療の本来の大切な目的はほかにあります。

 

鍼灸治療は、日本よりむしろ欧米諸国のほうが盛んという皮肉な現状ですが、その理由は「痛みを止める」ためだけではなく、「未病治療」として有効な治療法と考えられているからです。欧米の人々は、日々の仕事を継続していくには健康管理が何より大切であることを自覚しているようです。どんなに仕事が忙しくても、運動を欠かすことはありません。病気にならないための自己管理の大切さを心得ているのですね。

 

通常は病院には病気になってから訪れ、検査や治療が開始されます。しかし、鍼灸の場合は、病気の一歩手前や、病気にかかりそうな状態のときに、大きな効果を発揮するのです。



正常な免疫力を維持するには、どうしたらよいのでしょうか?


免疫力については様々な学説が報告されておりますが、東洋医学に従事する者にとって大変興味深い報告がありました。東洋医学では、中が空っぽの胃や腸が何よりも大切であると言われておりますが、成人の最大の免疫器官は小腸であるということが金沢大学大学院より研究発表されたのです。

 

空気や様々な食べ物に混ざって、ウイルスや細菌など悪い影響を与えるものが、日々私たちの体内に侵入してきます。それを水際で食い止める最初の砦が小腸です。なぜ小腸が6~7mもの長さが必要なのか疑問でしたが、腸内に数十個ある板状のリンパ組織「パイエル板」の存在が突き止められ、その疑問は解けました。いわば防御の総司令部で、攻撃の指令を受けると最善の方法で戦っている場所といえます。単純に言えば、胃腸が健康であれば、特別なことををしなくても元気でいられるということです。ただ、胃腸は食した物が直接身体に影響してしまうので、免疫を保つ上でも食事をおろそかにしてはなりません。身体には他にも免疫にかかわる箇所がありますが、年齢を重ねていくと、その機能はなくなっていきます。かたや、腸の免疫は歳をとっても免疫細胞の7割位が集中する最大の防御拠点となっていることが解明されています。そんな腸の大切さを東洋医学ではずっと昔から着目していました。進化する現代医学に比べ、東洋医学は「黒子」的な存在ですが、長い歴史上継続され続けているのは、このような科学的な研究があればこそといえます。

 

腸内の健全を保つには、腸内に善玉菌がバランス良く存在してくれるよう、食べ物を選択していく必要があります。たとえば、便秘は最悪の症例です。いろいろな症状の患者様が訪れますが、私はまずお腹の調子を尋ね、お腹に「気」が集中できる治療が必要かどうか判断してから治療をスタートします。胃腸の悪い方は治療と並行して食事療法についてもご指導させていただきますので、ご遠慮なくお申し出ください。



鍼はどうして痛みに対して効果があるのですか?


鍼の歴史は、長い経験的実例に基づいております。鍼が身体に害を及ぼすものであるなら、遠い昔に消え去っていたことでしょう。最近では、科学の進歩とともに、鍼灸の効果についても少しずつ客観的に解明されつつあります。それは、西洋医学では回復できない慢性疾病に対し、優れた効果をあげている事実があるからだと思われます。

 

鍼が痛みをやわらげる要素のひとつとして、鍼の刺激が脳の中枢からエンドルフィンという物質を分泌させているからではないかという学説があります。エンドルフィンは、鎮痛剤のモルヒネと同じような働きをするとのことですが、その鎮痛効果はモルヒネの200倍とも言われております。モルヒネは副作用の強い薬ですが、人間には本来、痛みをやわらげてくれる物質を分泌する能力が秘められています。痛みに苦しんでいる時は、副作用のない鍼灸治療は身体にとってやさしい、理想的な治療法と言えるでしょう。



昔から「皮膚は内臓の鏡」と言われていますが、鍼灸との関連性は?


人の免疫系で大切な役割を担っているT細胞は、胸腺でつくられます。その過程で正しく働くT細胞を生み出すためには、特殊な複合たんぱくが必要であることが解明されています。アメリカの国立保健所は、このたんぱくが皮膚の中に高頻度に存在していることを発表しました。昔の人たちが健康増強のために上半身裸になって、乾いたタオルで皮膚を刺激していた光景を思い出します。

 

皮膚は外界と内部が接する界面であり、人間はこの薄い皮一枚がなければ生きていくことができません。皮膚から顔をのぞかせている体毛、汗腺の根元には、生命維持装置のひとつである自律神経がつながっています。そのため、皮膚には生体の生理機能の状態がそのまま現れます。

 

この事実を科学的に解明されたのが、故・石川太刀雄博士(金沢大学元教授)であります。内臓に異変が起きると、そこからの信号が自律神経の求心路を介して大脳中枢に伝えられ、遠心路を介して効果器官に伝えられます。その時、さまざまな反射症状が発生し、それが体表に現れる症候群を「内臓体表反射」と名付けました。その反射とは、痛み、こり、倦怠感、冷え、汗、やつれ等です。そうした体表に現れた反射に対し、正しい部位に正しい刺激量の鍼灸を施術すると、血液循環を良くし、筋肉の緊張をやわらげ、さらに逆反射によって異変を起こしている内臓にも影響を与えることができるのです。



自律神経の乱れは病気に直結するのでしょうか?


自律神経には交感神経と副交感神経があり、それぞれ生命を維持するために密接な関係をもっています。交感神経は身体の活動性のため興奮をつかさどり、副交感神経は身体の安息性のためリラックスをつかさどっています。この両者の協調性、バランスによって、私たちは生かされているのです。そのため、身体の異変、病気は必ず自律神経と関わりをもっているのです。



鍼灸は免疫力を高めると言われておりますが?


鍼灸が白血球に影響を与えることは以前よりわかっておりましたが、近年、白血球が自律神経に支配されていることがわかり、白血球を調べることで病気の原因、治る様子が明確に把握できるようになってきました。

 

免疫学者である新潟大学大学院の安保徹教授は著書の中で、「白血球は、基本はマクロファージ(大食細胞)という形をしていますが、そこから進化して細菌を処理する顆粒球、免疫をつかさどるリンパ球が生まれました。これらの白血球が自律神経に支配されているために、自律神経の乱れが感染症だけでなく、すべての病気が起こったり治ったりする過程に関わってくるのです」と説明しています。さらに、「強いストレスを受けたり、がんばりすぎると、交感神経が興奮して顆粒球増多になって組織破壊の病気が起こりますし、のんびりリラックスしすぎると、副交感神経が過剰優位になってリンパ球増加でアレルギー性の病気が起きます。すると、病気の謎が全部解けてきます。自律神経のシステムに注目すれば病気のしくみをあますことなく、とらえることができるのです」と述べています。



鍼灸治療が免疫力に影響を与えたと考えられる症例はありますか?


数々の症例がありますが、印象深い症例として、かつて腎臓疾患のため白血球数が2300 /μl個しかなかった患者様が当院を訪れたことがあります。白血球が正常値でないために白内障の手術、充分な歯の治療などを受けることができず悩んでいらっしゃいました。半年の鍼灸加療を行ったところ、その方の白血球数は4400 /μl個までに回復し、無事に白内障の手術と通常の歯の治療を受けることができました。

 

最近は頚椎、および腰椎のヘルニア等で鍼灸治療を希望される方が多くなっております。特に頚椎ヘルニアは頭部に近いため、精神状態によって痛みや倦怠感、シビレ等、さまざまな症状を引き起こします。経験した人でなければ理解できないようなつらい状況が続きます。こうした方々も鍼灸治療を定期的に継続されるうちに症状が良い方向に改善されていきます。2~3年ごとのMRI精査で確認すると、回を追うごとにヘルニア部分が小さくなったり、消失してしまったりする方もいらっしゃいました。これはその方の免疫力が向上し、白血球の中のマクロファージがヘルニア部分を食べてくれたとも考えられます。



説明文については、一部下記著作より引用させていただきました。

免疫革命(安保徹)、News Week 1993.10.2